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孤高な碩学からの贈りもの 2 . はてなブックマーク  Twitter   2008-02-19

 巷間、「北野税法学」と呼称されているものの集大成が、この「税法学原論」第六版です。税金に関する本は、それこそ掃いて捨てるほどたくさん出版されていますが、そのほとんどはハウ・ツーもので、しかも、税務当局寄りのものが圧倒的多数を占めています。つまり、どのようにしたら税務当局に認めてもらえるかといったことに汲々(きゅうきゅう)としており、税務当局の顔色をうかがいながら、それこそ微に入り細をうがつ枝葉の記述に終止しています。
 これに対して、北野弘久先生の「税法学原論」は全く異なったものです。その最大の特色は、税務当局に対抗する納税者の立場から税法を捉えようとされていることです。
 先生は、同書の初版の序文において、いわば納税者側の権利立法としての税法について次のように述べておられます。
“税法解釈学上の基礎的諸問題の解明においてわたくしのもっとも意を用いたことがらは、日本国憲法の格調の高い人権感覚を税法レベルにおいていかに具体的に理論化するかという点であった。思うに、法実践論的には、税法は『徴税の法』ではなく、まさに徴税権力に対抗する納税者側の『権利立法』としてとらえられねばならない。ちょうど労働法が資本に対抗する労働者側の『権利立法』としてとらえられねばならないのと同じである。法実践論としての税法学は、能うかぎり納税者の人権擁護の立場にたって、行政や裁判、さらには立法に影響を与えうるにたる実践的な法理論をさきどり的に積極的かつ説得的に提示するものでなければならない。本書は、このような視角にたってのわたくしのささやかな努力の成果である。”(前掲書、xi序文)
 これは、先生の51歳のときの文章です。簡にして要を得た文体は、私のように法律の専門家ではない者にも分かり易く、私が自ら文章を書くときの一つの手本とさせていただいています。分かり易い最大の点は、明確な論理構成に加えて、借りものではない先生ご自身の言葉によって文章が組み立てられていることにあるようです。
 北野先生は現在、77歳。初版から四半世紀が経過していますが、先生の文章の瑞々(みずみず)しさは失われるどころか、いぶし銀のようにその輝きを増しています。

 この本は、税法を学んでいる学生諸君とか、公認会計士あるいは税理士を目指す人達の必読の書であるだけではありません。私達、実務に携わる職業会計人だけでなく、一般に経理に携わる人達にとっても、税務当局と対峙していく勇気を与え、自らの仕事に誇りを与えてくれるかけがえのない書物と言えるでしょう。更には、税務訴訟に携わったり、あるいは、税理士として税務当局との折衝にあたる弁護士諸氏にとっても、実務的にそのまま役に立つだけでなく、理論武装をするための格好の教材であると言えるでしょう。
 現在、日本には7万人程の税理士がいます。私の見るところ、このほとんどが日常的に税務署側の論理を振り回しており、納税者の権利に意を用いているのは、ほんの一握りでしかありません。実際のところ100人に1人いればいいほうでしょう。多くとも、全国で1,000人を超えることはないはずです。
 税理士の使命は、「独立した公正な立場」(税理士法第一条)に立つ、とされてはいるのですが、現実は全く違っています。他ならぬ税理士法自身の縛りによって、独立どころか、完全なまでの税務当局のコントロール下にありますし、そのような中で、公正な立場を維持することなど至難の技です。
 現在の税理士法は、全税理士の半数近くを占める税務署OBの利権を確保すると同時に、現役税務署員の退官後の仕事(食いぶち)を確保することに最大の眼目が置かれていると言っても過言ではありません。言い換えますと、税務署員の退職後の生活を、納税者が年間で数千億円(推計)も負担して支えているということです。昨今問題となっている、国民の税金を食い荒らしている天下り役人の変形と言ってもいいでしょう。そのためでしょうか、税務当局の意向に逆らったりする者は、税理士業界から容易に排除できるシステムが仕組まれている法律なのです。依頼者である納税者など、どこ吹く風、納税者の犠牲においてひたすら税理士の食いぶちを守ろうとしている悪法です。
 “税理士の、税理士による、税理士のための税理士法”、あるいは、“国税の、国税による、国税のための税理士法”とも極言できるでしょう。そこには、日本国憲法において主人公とされている一般国民-納税者の視点が決定的に欠落しています。
 しかし、窮すれば通ず。税務当局ががんじがらめにしている中にあっても、なおかつ、納税者の権利を守る道があるのです。その一筋の道に灯りをともしてくれるのが、北野税法学であり、「税法学原論」であると言えるでしょう。
(この項おわり)

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 孤高な碩学(せきがく)との出会いに感謝して一首。
“梅の花 香(か)をかぐはしみ 遠けども 心もしのに 君をしそ思ふ”
-治部大輔(ぢぶのだいふ)市原王(いちはらのおほきみ)。万葉集、4500番。

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